信託財産と小規模宅地の特例

最近、名古屋在住の方から、信託契約をしたという方から、小規模宅地の特例の適用は問題なくできるのか、という質問をされました。

ネットで検索すると特例の適用はできそうですが、条文上どのように記載されているか、委託者死亡によって信託財産の帰属権利者へ土地が移転した際に小規模宅地の特例の適用の可能性があるのか、という疑問について、少し深く考えてみようと思います。

そもそも、なぜ上記の疑問が出るかといいますと、小規模宅地の特例は、原則として、相続した財産についてのみ適用があるからです。

信託財産が、委託者死亡によって帰属権利者に不動産の所有権が移転することは、相続には当たりません。信託契約に基づいて、あるいは、終了によって所有権が移転しているといえます。

そのため、上記権利移転については相続税が課税されること、小規模宅地の適用があるという規定が必要になります。

小規模宅地等の特例に関する規定(租税特別措置法69条の4)は、同法施行令第40条の2第27項により、相続税法第九条の二第六項の規定を準用されます。

相続税法第九条の二第六項では、「第一項から第三項までの規定により」信託財産を取得したものは、贈与又は遺贈とみなされ、相続税法の適用がある旨規定があります。

相続税法第九条の二第一項は、他益信託の設定についての規定です。

相続税法第九条の二第二項は、受益者の変更についての規定です。

相続税法第九条の二第三項は、受益者が一部不存在となった場合の規定です。

ちなみに、相続税法第九条の二第四項は、信託が終了した場合における残余財産を受け取る人がいる場合の規定です。

相続税法第九条の二第六項は、あえて、四項を除外しているように見えます。

つまり、委託者死亡に伴い、信託が終了した場合における残余財産に特例の適用がないようにも条文上読めてしまいます。

 ただ、ネットで検索すると上記の条文の仕組みに付いての説明はなく、単に信託財産にも特例の適用できるとしか書かれていないサイトが多いです。

 おそらくは、租税特別措置法69の4-2の通達に信託に関する権利も特例の適用を受けることができると記載されているように、その当然の前提として信託財産も特例の適用を受けることができるができるという解釈なのだと考えます。

 ただ、最近までこの疑問に真正面から回答している書籍は見つけられませんでした。

 ところが、令和7年5月に出版された相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説(令和7年版)の租税特別措置法69の4-2の該当箇所については、旧版には記載されていなかった「※なお、相続税法第9条の2第4項の残余財産には、特例対象宅地等がふくまれえることに留意する。」という記載が追加されていました。

 税法に明確に記載されているわけではないので、少し腑に落ちないところはありますが、信託財産も特例の適用を受けることができることは間違いないようです。