限定承認と先買権

先日の記事では,限定承認の税制上のデメリットを強調しましたが,もちろんメリットもありますし,特定の場合には便利な制度でもあります。

その一つとして,先買権の行使が挙げられます。

例えば,ある程度相続人に金銭的余裕があり,被相続人たる父親の土地建物を相続放棄したくないが,父親の借金を全て負うことはできないという場合です。

通常,相続放棄や限定承認がされると,不動産は競売等により換価されることが多いです。

しかし,限定承認の手続きの場合,相続人が希望すれば,家庭裁判所に鑑定人を選任してもらい,その鑑定人が評価した額で,競売にかけられる前に優先的に相続財産の一部を買い取ることができるのです。(買い取ることは義務ではないので,鑑定額が高すぎれば,買わないという選択をすることもできます。)

このことを「先買権の行使」といいます。

このように,一般的には使いにくい制度であっても,特定の場合には非常にありがたい制度になることもありますので,相続の場合は様々な角度からの検討が必要です。

ただし,限定承認の場合,まずは,相続人全員の共有で法定相続分に従い相続登記をすることになります。

そのため,相続人が複数いる場合は,先買権の行使をした相続人に対してさらに共有持分の移転があり,別途,不動産取得税,登録免許税等の費用がかかってくるので注意が必要です。