名古屋の弁護士の内堀です。
今回は,限定承認について,税金との関係で記事を書きたいと思います。
民法第922条
「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。」
限定承認とは,簡単にいえば,相続人が被相続人の積極財産の範囲内で,被相続人の消極財産の責任を負うという制度です。
被相続人の積極財産が借金等の消極財産を差し引いてもまだ残っているのであればそれを相続し,借金のほうが多ければ帳消しにされるという一見便利な制度です。
しかし,実際には,あまり利用されることはありません。
その理由として,相続人全員の同意が必要だとか,相続財産目録を作成し限定承認申立書を家庭裁判所に提出しなければならないとか,手続きが煩雑であることがよくあげられます。
さらに,税金との関係でも大きなデメリットを負います。
それは,みなし譲渡所得税がかかるということです。
所得税法59条1項
次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
この条文から,限定承認をすると,被相続人の全ての財産を時価で売却したのと同じ額の贈与があったものとして,譲渡所得税が発生します。
譲渡所得があったものとして税金が発生するわけですから,3000万円+法定相続人×600万円の基礎控除等も適用されません。税率も相続税と譲渡所得税では異なります。
このため,財産がマイナスになる場合は税金が増えることにさほどの意味はないのですが,財産がプラスであったとき税金分目減りしてしまう危険性があるのです。