生命保険金と相続税

名古屋の弁護士の内堀です。

前回の記事でも述べたように,生命保険金は相続財産ではありません。

ならば,相続税がかからないのではないか,相続財産を被相続人が亡くなる前に保険料としておけば生命保険金全額に相続税はかからず節税になるのではないかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが,それは違います。

 

相続税法3条1項1号抜粋

第三条  次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。

一  被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約を取得した場合においては、当該保険金受取人について、当該保険金の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

 

簡単にまとめると,被相続人が保険料を払い,相続人が受取人となった場合,税務上は,保険金は相続により取得したものとみなし,課税の対象となるということです。

いわゆる,「みなし相続財産」といわれています。

 

ただし,生命保険金全額が相続税の対象となるのではなく,一定金額は非課税となることが認められています。

 

第十二条  次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。

五  相続人の取得した第三条第一項第一号に掲げる保険金については、イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、イ又はロに定める金額に相当する部分

イ 第三条第一項第一号の被相続人のすべての相続人が取得した同号に掲げる保険金の合計額が五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(ロにおいて「保険金の非課税限度額」という。)以下である場合 当該相続人の取得した保険金の金額

ロ イに規定する合計額が当該保険金の非課税限度額を超える場合 当該保険金の非課税限度額に当該合計額のうちに当該相続人の取得した保険金の合計額の占める割合を乗じて算出した金額

 

簡単にまとめると,「法定相続人の人数×500万円」については,非課税となります。

この限度額の範囲において,相続税の節税が可能です。

 

このように,民法上の相続と税務上の相続は,その仕組みがまったく同じというわけではありませんので注意が必要です。

生命保険金は相続財産となるのか

基本的なことから説明していきます。

そもそも,「相続」とは,被相続人の死亡によって開始します(民法882条)

そして,相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りではありません(民法896条)

この相続によって,承継される「被相続人の財産に属した一切の権利義務」が相続財産,一般的には遺産と呼ばれるものです。

この相続財産の中には,プラスの財産(現金,預金,不動産等)だけでなく,マイナスの財産(借金等)も含まれています。

それでは,被相続人が生命保険に入っており,相続人が受取人となっていた場合,生命保険金は相続財産となるのでしょうか。

上述のように,相続財産とは,「被相続人の財産に属した一切の権利義務」です。

保険金は,保険契約に基づき受取人が受け取る受取人固有の財産ですから,相続財産には含まれません。

 

しかし,生命保険金は,特段の事情があれば,特別受益に準じて持ち戻しの対象となることもある(最高裁判決H16・10・29)ので,注意が必要です。

 

最高裁判決H16・10・29の抜粋

養老保険契約に基づき保 険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。

もっとも,上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が生前保険者に支払ったものであり,保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。

上記特段の事情の有無については,保険金の額この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである

 

さらに,「相続財産に含まれない」としても,「相続税の対象」とはなります。

相続税との関係については,次回の記事で書きたいと思います。

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例についての注意点

名古屋の弁護士の内堀です。

前回は,納める相続税が少なくなる可能性のある小規模宅地等についての相続税の課税価額の計算の特例(以下,小規模宅地の特例と省略します。)について記事を書きました。

今回は,相続税の申告時に相続財産が未分割である場合の注意点を書きたいと思います。

 

前提として,相続税の申告期限は,相続と知った時の翌日から10カ月以内です。期限後申告には,延滞税が課されます。

そして,相続税申告時に,遺産分割がされていなくとも,一旦は法定相続分に従い,相続税を納めなければなりません。

このような未分割の状態での相続税の申告の際には,小規模宅地の特例を適用することはできません。

ただし,申告期限後3年以内の分割見込書を税務署に提出すれば,3年の遺産分割時に小規模宅地の特例の適用を受けることができます。

 

この3年という期間が曲者です。

遺産分割でもめていれば,3年間程度はあっという間に過ぎます。

他方,遺産分割の紛争で頭がいっぱいの状況で,小規模宅地の特例の適用条件について記憶し続けるには,3年間は長すぎます。

そして,何もせず,3年経過したのちに遺産分割の合意をしても,小規模宅地の特例は適用されません。

前回の記事のように1億円の土地という相続財産があり,妻と子供の二人がいる場合であれば,小規模宅地の特例の適用がある場合には支払わずに済んだ相続税,合計770万円を納めなければならない事態に陥ります。

 

この3年という期間をしっかり覚えていれば,仮に未分割の状態で3年が経過しそうであっても,申告期限後3年経過時から2カ月以内に,「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出,税務署の承認を受けることで,小規模宅地の特例の適用が可能となります。

この場合,判決の確定の日など遺産が分割できる状態になったときから4ヶ月以内に分割を行えば,小規模宅地の特例の適用を受けることができます。

 

相続は,あらゆることに意識を向けていなければ,大きな失敗をする可能性があります。慎重に対応することが必要です。

 

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小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について

相続財産には相続税が課せられます。

しかし,不動産を所有している場合,不動産の価値自体は高い傾向にありますが,現金が手許にあるとは限りません。

そのような場合にまで,画一的に相続税を課していれば,今まで住んでいたところを,相続を契機に追い出されかねません。

そのような,事態をできる限り防ぐため,租税特別措置法は,小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を設けています。

いわゆる,小規模宅地の特例は,一定の要件を満たせば,評価額が5割から8割減額されることになります。

 

例えば,被相続人の相続財産が1億円の土地のみで,相続人が妻と子供一人だった場合,(ここでは,配偶者の税額軽減の特例は無視します)

小規模宅地の特例がなければ,

基礎控除 3000万円+600万円×2=4200万円

1億円-4200万円=5800万円が課税される相続財産額となり,

妻・子供の法定相続分は,それぞれ2900万円ですから

2900万円×15%(相続税率)-50万円(控除額)=385万円がそれぞれの相続税となります。

相続財産に現預金がなく,妻・子どもにも財産がなければ,妻・子どもはこの土地を売るなどして現金を作らなければならなくなります。

 

他方,小規模宅地の特例の適用により,評価額が8割減額されれば,土地は2000万円と評価され,4200万円の基礎控除額よりも少額なため,相続税は0円となります。

妻・子どもは,この土地を追い出されることなく,住み続けることが可能となるのです。

 

小規模宅地の特例を利用するには,条件がありますので専門家にご相談ください。

また,生前であれば,小規模宅地の特例の適用を見据えて積極的に行動することもできる可能性があります。

 

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限定承認と先買権

先日の記事では,限定承認の税制上のデメリットを強調しましたが,もちろんメリットもありますし,特定の場合には便利な制度でもあります。

その一つとして,先買権の行使が挙げられます。

例えば,ある程度相続人に金銭的余裕があり,被相続人たる父親の土地建物を相続放棄したくないが,父親の借金を全て負うことはできないという場合です。

通常,相続放棄や限定承認がされると,不動産は競売等により換価されることが多いです。

しかし,限定承認の手続きの場合,相続人が希望すれば,家庭裁判所に鑑定人を選任してもらい,その鑑定人が評価した額で,競売にかけられる前に優先的に相続財産の一部を買い取ることができるのです。(買い取ることは義務ではないので,鑑定額が高すぎれば,買わないという選択をすることもできます。)

このことを「先買権の行使」といいます。

このように,一般的には使いにくい制度であっても,特定の場合には非常にありがたい制度になることもありますので,相続の場合は様々な角度からの検討が必要です。

ただし,限定承認の場合,まずは,相続人全員の共有で法定相続分に従い相続登記をすることになります。

そのため,相続人が複数いる場合は,先買権の行使をした相続人に対してさらに共有持分の移転があり,別途,不動産取得税,登録免許税等の費用がかかってくるので注意が必要です。